■連載「研究と結婚」■

本シリーズは蛋白質核酸酵素(共立出版)2001 年 9 月号 〜12月号に掲載しております。
2001年 9月号 研究と結婚(1) 結婚相手は同業者? 
2001年10月号 研究と結婚(2) 結婚相手は同業者?その2
2001年11月号 研究と結婚(3) 子連れで学会?
2001年12月号 研究と結婚(4) まとめ 〜インタビュアの感想〜
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(掲載号発売日から1ヶ月後より当websiteへ順次掲載いたします。最新号は共立出版"蛋白質核酸酵素"をご覧ください。)


(蛋白質核酸酵素9月号 Vol.46(2001)より許可を得て転載)
研究と結婚(1) 結婚相手は同業者?

はじめに 前シリーズでは、博士号取得ーポスドクの特集が組まれました。今回の特集は研究者がその過程、もしくはその直後に直面する結婚にスポットを当ててみました。結婚はそれまで研究一筋の人生を過ごしてきた研究者にとって、社会との接し方を再構築する上で一つの転換点だと思います。また、それにより研究スタイルにも大きな変化があらわれてくるでしょう。従って研究スタイルも再構成する必要性がありその部分においても転換点であると言えます。そこで今回、研究者、未婚研究者(男女)にお話をお聞きし、研究と結婚についてその多様性や現状の問題点に迫ってみようと思います。今日は理化学研で脳の研究をしている男性研究者にインタビューします。

インタビュア 今回のシリーズではそんな研究者の結婚に対する考え方を中心に取材していきたいと思います。よろしくお願いします。

男性研究者 よろしくお願いします。研究と結婚、面白そうですが、なかなか難しいテーマですよね。研究、結婚共に考え方は多種多様だと思いますが、私の理想とする結婚相手は、ズバリ同業者です。同じような研究分野で、家に帰ったら研究の話をしたりとか、ながい目で見た時に、研究だけでなく人生のパートナーになっているなんて形が理想です。人生のパートナーとしての女性像をイメージしています。

インタビュア 結婚相手も研究がプライオリティの上位に来る人が好いという事ですね。最初からかなり方向性のある御意見が聞けて嬉しいです(笑)。ただこの分野では比較的多い考え方ではないでしょうか。この場合、研究に対する文化が共有できるかどうかは重要です。例えば研究のアプローチの違いからしょっちゅう口論になったりしたら気が休まらないでしょう。

男性研究者 僕はむしろ異なる方を歓迎します。私は分子生物学を専攻しているので、その分野の視点が強みだと思いますが、相手の人は細胞生物学など、別の視点を持った方がいいですね。連係して包括的に研究テーマができるといいな。もちろん、性格的に相性があれば、もちろん上記の事にはこだわりません。自分の仕事に理解を示してくれるような人であれば誰でもかまいません。実際、研究者はそう収入的にも恵まれているわけではないので贅沢は言えないのかも。アメリカでポスドクとして働いたら年俸3万ドルですからね。

インタビュア 余談ですがアメリカの制度は面白いです。ドクターコースを出た後、ポスドクとして働くと確かに給料は高いとは思いませんが、バイオメディカルリサーチャーという企業研究員になると、年俸8万ドルが初任給の平均だそうです。ポスドクと2倍以上違うところがアメリカらしいのかもしれません。

男性研究者 ボストンでポスドクをしている先輩の話だとかなり生活費がかかるそうです。都市部では日本よりも生活費がかかるなんて事はざらにあるそうです。

インタビュア 話が脱線してしまいました。この話は別の機会で待たしましょう(笑)。ところでお話をお聞きしていると、結婚相手には研究を理解して下さる方が良いという事だと思うのですが、実際に研究をしている環境でそのような方と出会えるチャンスはありますか。

男性研究者 研究の世界はどちらかというと男性の方が多いです。だから女性とあまり出会いうチャンスがありません。そこに問題を感じています。だから近くの人、つまり同業者と結婚する事が多くなるのでしょう。またお見合いの話なんかも多いですね。実際には結婚した後も大変でしょう。実際よくあるパターンで、結婚前は一日の2/3を研究に費やしている人が、結婚すると朝早く研究所にきて夕方には帰るということがあります。現実は研究を全ての中心にしたくても、限られた時間内で結果を出せるようにしていく必要性があるのでしょう。

インタビュア 夫婦共に研究者の場合、ポストによって別居している場合が多いですね。別居という環境は問題になりませんか?

男性研究者 その部分に関しては個人的には避けたいです。ただポストも少なくなってきているのでそうは言ってられないのかも。実際に子供ができたりすれば、お風呂に入れないといけなかったり、家族の時間もとったりする必要もあるでしょうし。この部分は女性や先駆者の御意見も聞いてみたいです。

インタビュア そうですね、この部分を次回では少し掘り下げてみましょう。次回を御期待下さい。今日はありがとうございました。


(蛋白質核酸酵素 10月号 Vol.46(2001) より許可を得て転載)
研究と結婚(2) 結婚相手は同業者?その2

はじめに 前号では研究と結婚をテーマに、とある独身の男性研究者の方にインタビューを行いました。意見をまとめてみると「同じ分野でテーマが異なる自立型女生とのパートナーシップの構築を重視する」と言えるでしょう。今回は、現在ポストドクターをしている独身の女性研究者の方に、同業者と結婚することについての意見を聞いてみました。

インタビュア 今回は縁あってインタビューにお付合いいただくことになりましたが、よろしくお願いいたします。前号はある意味、この業界では比較的多い男性研究者の意見だったと思います。あの記事を読んでどう思いましたか。

 こんにちは、よろしくお願いします。私の場合、研究を続けていくのを前提で結婚というものを捉えているわけではありませんが、同じ分野というより、同業者との結婚は避けたいと考えています。つまり逆の意見です。同世代で、男女の間の意見が正反対とは興味深いです。なぜそう思うのですか?明確に「これ」といった理由ではないのです。しかし女性研究者は圧倒的に同業者と結婚している事が多いので、その問題点が垣間見えるからだと思います。

インタビュア 一般論に対するアンチテーゼみたいなものも感じますが、それだけでは無さそうですね。もう少し詳しく聞かせて下さい。

 具体的には、私より年上で、ある程度の仕事をやっている女性研究者の旦那さんの多くは、非常に有能な研究者である場合が多い気がするのです。以前YAHOOの掲示板で見たのですが、女性の研究者が成功するのは大きく分けて3パターンあるそうです。一つめのパターンは、旦那さんが非常に優秀な研究者でその奥さんの場合です。二つめは、ばりばり独身で研究をやっていく場合です。三つめは、頭の切れで勝負していく場合だそうです。その意見では、実際には圧倒的に一つめのパターンが多いそうです。そのあり方が良い悪いではなく、私自身それでは楽しくないなと感じました。

インタビュア なるほど、これまでその観点から見たことがなかったので新鮮な意見です。それは紹介や推薦で仕事が決まる事が多い業界と言われることが関係しているのかも知れません。

 私はプロとして研究をやっていく上で、旦那さんと同じ研究をするのはやだなと考えています。それから論文の共著に同じ名字があったりするのも。何故かというと、女性の方がその研究のサポート役と思われる事が多いような気がするからです。またプライベートと仕事が一緒になっているのもリラックスできないと感じます。

インタビュア 研究者でないとすると、例えばどんな方が理想の結婚相手ですか?

 純粋な恋愛をして結婚できれば、相手はどんな分野の方でもよいと思っています。デートも、学会とかではなく、お台場の花火とか(笑)。学生結婚が多いのは単にお互いが近くにいるからでしょう。私の場合も実際に周りに研究室内で付合っている人が多いです。ただ何かと問題があります。例えば彼女の卒論を彼が書いていたりしています。では彼女は何をやっているのか?彼の家で御飯をつくっていたりするのです。

インタビュア うわさでは聞いたことがありますが、そんな事が実際にあるんですね。しかし研究室内でつき合っていた場合、別れた時は大変でしょう?

 そうです。うまくいかなくなった時も問題です。実際には同じラボにいる場合は別れられなかったりする場合もあります。研究室内にもその雰囲気が蔓延するからです。研究以外の理由でぴりぴりしている研究室で、よい研究ができるとは思えません。第一世代の方々は研究第一主義でやってきたのだと思います。だからその文化の中で集団化していったのではないでしょうか。第二世代、第三世代の研究者は、もっと多様性があってもいいと思います。私の場合、研究も恋愛も楽しみたいと思います。

インタビュア ありがとうございました。同世代の男女間でこれ程、異なる意見が存在することは興味深いです。まさに多様化する研究者の価値観を感じます。次回はこれまでの意見を踏まえて、既婚者の方の意見を聞いてみるつもりです。


(蛋白質核酸酵素 11 月号 Vol.47 (2001) より許可を得て転載)
研究と結婚(3) 子連れで学会?

はじめに(あらすじ) 前号では研究と結婚をテーマに、独身の男性、女性研究者へのインタビューを行いました。同業者が理想の結婚相手であるという男性研究者に対し、女性研究者は以前と現在の研究環境の変化からもっと結婚相手野選択肢も多様性があるのが自然であろうという意見でした。では実際に結婚している人の意見はどうなのでしょうか?今回は既婚の女性研究職の方にお話して頂きます。

インタビュア よろしくお願いします。まず前号を読んだ感想をお聞かせ下さい。

 よろしくお願いします。実際、研究者同士でおつきあいされて結婚しているケースは私の周りでも多いですね。テクニシャンの方で研究者と結婚する事も多いと思います。私の場合も職場結婚でした。

インタビュア そうですか、研究者同士の場合、同じ文化を共有しているので、お互いコミュニケーションが上手くとれるのかも知れません。

 ただ、お互いが理解できるという面では問題は感じませんが、子育てとなるとそうもいきません。子育ては女性が研究者として仕事をする上で、かなりのハンディになると思います。私も二人の子どもがいますが、そりゃあ大変です。この部分には、研究者だからとかではなく、日本の社会システムにも男女の不平等を感じます。

インタビュア 具体的にはどういう不平等が存在しますか?

 まずはじめに、子どもの送り迎え、食事ですね。子どもはある程度の年令になると保育園や幼稚園に通います。最初はもちろん交代でやる事になっているのですが、次第に女性の頻度が増えてきます。特に迎えに行くのはほとんどの場合、男性はできませんし、夕食を考えると女性が迎えに行く方が、効率が良い面も多いのです。結婚前は、夕方からの実験や、土日の実験も研究のぺ−スに合わせて組めましたが、結婚後、特に子どもが生まれてからは難しくなりましたね。

インタビュア 女性がプロフェッショナルとして研究を続ける場合、子どもの影響はかなり大きそうですね。

 そうなんです。実際子どもがいても夫婦共に同じラボであれば、子どもを連れて土日にラボに行くケースも聞きます。しかし、別の研究所であったり、職業が異なる場合はそういう事は不可能です。最も影響が出るのが学会などです。家から通える距離にあればまだ良いのですが、遠隔地の場合どうしても参加しづらいのです。家族の理解が得られても、なにか後ろめたさを感じてしまいます。結婚相手はともかく、日本の常識では未だに母親が子どもをおいて一人で出かけるのは非常識と考える人がまだ多いです。

インタビュア そういえば今年の分子生物学会には、ジェンダーの問題を考え託児所が併設されるそうです。

 あれは非常に画期的な事だと思います。この分野に限らず、日本にはまだジェンダーの問題を真剣に考えようという風土が育っていないような気がします。既に取り入れられている制度でも、他の既開発国が実施しているなどの理由で施行されるのではないでしょうか。だから中身が議論されず表面的な制度になっている気がします。個人的には、研究職などの男女の差が現れにくい職業ほど、先駆的にジェンダーの問題に取り組むべきだと思います。

インタビュア どうやら結婚、それに続く子育ての女性研究者に与える影響はかなり大きい様ですね。特に情報収集の場である学会に参加しづらいのは問題です。。しかし今日はライフサイエンス関連の話が少なかったですね(笑)。

 そうかもしれません(笑)。逆にいえば研究そのものは非常に楽しく、研究室ではあまりジェンダーの問題を意識しないのかもしれません。もちろん研究室内部でジェンダーの問題があるところも存在するのでしょうけど。結婚前は研究室内、結婚後は研究環境にある問題に意識がいくのかもしれません。

インタビュア 今日は男性では分かりづらい結婚後の悩みをお話頂きありがとうございました。次回はいよいよ本シリーズの最終回でまとめてみたいと思います。


(蛋白質核酸酵素 12月号 Vol.46(2001) より許可を得て転載)
研究と結婚(4) まとめとして 〜インタビュアの感想〜


 本シリーズでは「研究と結婚」をテーマに、年齢や背景の異なる研究者にインタビューを行い、アンケートでは埋もれてしまいがちなナマの声を拾う事を試みました。過去三回のインタビューではそれぞれ方向性のある意見が聞けたと考えています。今回は連載を振り返って小括したいと思います。

シリーズのレビュー 第一回で取り上げた独身男性研究者の場合は、研究職というものへの理解や自分の研究の都合から、同業者との結婚を希望する旨が聞かれました。対照的に、第二回の独身女性研究者の場合は、自分の研究の都合や、研究室内の恋愛を真近にみて、逆に同業者との結婚を望まない旨が聞かれました。第三回では既婚女性研究者にお話を伺いましたが、たとえお互いの理解が得られても、実際の子育てでは多々苦労する旨が聞かれました。

 以上3回のケースでは、、研究者業界にある結婚の問題の全てを覆うことはもちろん出来ませんが、その一端を垣間見ることはできたと思います。今回は取材を通した感想を述べて、連載の締めにしたいと思います。

 まず第一に、男女の未婚研究者の間で、結婚と研究に関する認識が大きく異なると感じました。今回の未婚男性研究者の場合、先輩研究者のライフスタイルを見て、それらを好ましいと捉えているようですが、他方、今回の未婚女性研究者はそうではないようです。想像ですが、この現象はラボ社会は通常、男性社会であることから生じているのかもしれません。また第二回で語られた「同じ研究室内で恋愛する問題点」も、身近な具体例として読者の方々にも共感する部分があったと思います。ある資料*には、約5割の研究者が同業者と結婚していると書かれています。同業者結婚はある意味、典型例であり、それと同時に、アカデミックハラスメントなど様々な問題点も含まれている可能性があります。さらに未婚女性研究者の「旦那さんと同じ分野を研究したくない」という意見は、夫婦別姓の問題に通じるでしょう。婚姻により研究上の名前を変えるのは、研究者としてのキャリアを保つ上で不都合が多いのではないでしょうか。旧姓使用の実現は研究環境の整備の一環として検討されるべき問題でしょう。第3回では研究者を続けていく中で育児と研究の両立や、女性研究者が研究を続ける上での世間の目の厳しさが語られました。特に同じ分野の研究者同士のカップルの場合、学会の出張が重なることも多く、乳幼児がいる場合には出張期間中の子どもの世話が問題になるでしょう。今年の分子生物学会の託児所をはじめとして、学会における託児所の併設が一般化する必要性を感じました。

 今回の取材を通して大学生から院生、プロの研究者になるにつれて、徐々に女性が研究を続けるのに困難が増える印象がありました。男性の場合も、他の職業に比べて、雇用の安定性の面や収入の部分でさまざまな問題がありますが、女性研究者の場合は、育児、世間の目など社会構造の部分の問題も含まれていると思います。若手研究者人口の増加が、「ポスドク一万人計画」のもと国の政策レベルで実施されている今、若手研究者をめぐる環境に変化が現れてきていると感じます。ナイトサイエンスの視点から、男女の価値観の違いや、現代の研究環境で語られていることが活字になることの是非を問う意見もありましたが、キュベット委員会では今後も、いろいろな角度からアカデミアの領域を映す企画を実施していくつもりです。

(PNEキュベット委員会)
*雑誌「科学」2000年4月号(天文学会による調査)


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